【あしたの闇太郎】 いよいよ開店前夜

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開店日が迫っているのに店舗づくりや金策に追われ、レシピをじっくり練ったり、料理の腕を磨いたりする余裕がなかなか持てなかった。
名古屋の貧乏学生の時代によく通った今池の鉄板焼の店、先生たちと出掛けた老舗の居酒屋、アルバイトで親しくしたバンドマンとよく飲んだ広小路の屋台、更には大阪勤務の頃よく利用した天満の串かつ屋など、体験を総動員してメニューを考えていった。
店の規模や大衆性を考えて、安価でシンプルな料理を、型にとらわれず自己流でやれるものを選んだ。自分の味覚と美学を信じて、野生的に! 力強いイメージで! 〝美は乱調にあり〟で!

まずはおでんと鉄板焼(くじら焼、いか焼、ホルモン焼、野菜焼など)、それに焼魚と刺身、もつ煮込み、酢の物、おひたし、ぬか漬けなど、20品位を決めた。〆には名古屋風のきしめんを加えた。
焼鳥だけはあえてメニューからはずした。焼鳥をやるとすべての料理が焼鳥に負ける気がしたし、焼鳥屋のイメージにはしたくなかった。自分はもう少し粋な大衆酒場がやりたかった。「闇太郎」に何か新しいものを夢みていたし、何かの始まりを期待していた。
値段はできるだけ安く、〝吉祥寺で一番安い店〟を密かに狙っていた。学生や若者がターゲットだったから。
ビール大ビン190円(仕入値が130円もしたのに!)、日本酒1級130円、2級酒100円と超安値にした。吉祥寺の大衆酒場を調査したとき、ハーモニカ横丁の「三楽」という店が大ビン200円で一番安かったからそれより10円安くしたのだ(後にこの仮想ライバル店「三楽」の社長は、この190円のビールと私のつくるもつ煮込みのファンになってよく来てくれた)。

ぶっつけ本番は余りにも無謀に思われたので開店日前の2日間、知り合いや前の会社の同僚たち30人位に声をかけて、料理の練習台になってもらった。1000円会費で飲み食い放題、「何でも文句や感想を述べてくれ」と。新品のおでん鍋、初めて使う鉄板の料理、煮込みや刺身など、緊張と興奮の中で次から次へとつくって、批評をあおいだ。
このリハーサルの協力を得て、金をとって料理を出すプロ的次元の体験ができ、少しだけ自信がついた。
1972年12月4日、いよいよ闇太郎の誕生である。

闇太郎
Tel : 0422-21-1797
〒180-0002
東京都武蔵野市吉祥寺東町1-8-18
営業時間 : 18:00~22:00
定休日 : 日(祝日不定休)