【あしたの闇太郎】第6話 初期の日々と常連たち
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太郎を開業して50年が過ぎたけれど、一番なつかしく想い出されるのは、やはり最初の頃である。
予想した通り、闇太郎により運命が一変した。昼と夜がひっくり返った!夕方の仕入れや仕込みに始まり、片付けが終わるのは夜中の2時過ぎ、まさに丑三ツ時で、眠りにつくのは朝方。お天道様に背を向けて生きていくような、ある種不健康な、世間と逆行した日々が始まったのだ。
しかし、毎晩他人様が向こうからやって来てそれを迎えてもてなすわけで、緊張感あり、新鮮であり、刺激的であり、しかも酒を通じて出会うからどこか楽しい!有難い日々の有り様である。闇太郎のイメージ通り、夜働きの世界にはまっていく。
開店が12月で酒をのむ機会も多く、順調なスタートがきれたと思う。

そして、来店の頻度や店への貢献度、親愛の情や人柄な どによって、1カ月位のうちに初期の〝常連〟と呼ぶべきお客たちが形造られていった。
開店日早々に馬券のノミ屋を紹介してくれたT社の守衛Uさん。仕事帰り毎晩のように立ち寄った酒の強い「スパゲッ亭」のH君。マイぐいのみを持ちこみ紳士然として飲んでいた「ムサシ電機」のI君。牧師のような風貌と黒衣でよく連れだって来た「マルニ建設」のS氏とO氏。キューピー人形のような可愛い顔して燗酒をひとりで楽しんでいた石屋の社長〝ハゲチャマ〟。映画やサヨク政治、エロスの話題までよく私に振ってきた広告マンのユウちゃんや音楽プロデューサーのイマちゃん。カウンターの隅っこでいつも原稿を書いていた長髪の放送作家M君。開店日に花輪を出してくれ急接近してきた謎のクラブ経営者M氏や市会議員のN氏。その他、少々先輩風を吹かせながら素人の僕らに親しくしてきた割烹の板前や飲食の店主たち、当時学生寮になっていた隣りの松井病院に住んでいた学生の面々…開店してすぐに登場したこれら個性的な常連たちの顔や表情、飲んでいる姿が現在でもありありと思い浮かぶ。

それにしても思い出すのは圧倒的に男の客ばかりだ!女性の客が思い浮かばない!時代のせいもあろうが、闇太郎は本当に男っぽい酒場であった気がする。男同士が肩ふれあってワイワイ飲んでいた光景が一番印象に残っている(後年、作家の川上弘美さんや山田詠美さんが、闇太郎の店にいかに入りにくかったか、入るのに何年もかかったこと、おじさんたちの店だと思っていたことなど雑誌に記している)。しかし今では、女性の常連客もたくさんいるし、若い女子もひとりで平気(そう)に出入りしている。女性をめぐるこの50年の変遷ぶりが、闇太郎のカウンターにも如実に現れていておもしろい。
闇太郎
Tel : 0422-21-1797
〒180-0002
東京都武蔵野市吉祥寺東町1-8-18
営業時間 : 18:00~22:00
定休日 : 日(祝日不定休)