【あしたの闇太郎】第7話 商売の面白さと厳しさと

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 最初の頃は“客商売”が新鮮であり、閉店後にM君(※編集部註:闇太郎立ち上げの同朋。第五話参照)と一杯やりながら、よくお客たちの〝深夜の品定め〟をして楽しんだ。「あの男は何やっているんだろう?」「遊び人か勤め人なのか?」「彼はどのくらい飲めるんだろう?」、飲みっぷりや酔いっぷり、飲みぐせ、金ばらいのよさ悪さ、或いは「競馬をやるのか?」「連れの女は何者?」「若いのに粋な奴だな」…ほめたりけなしたり、評価したり反発したり、商売上だけでなく、お客の人柄や酒とのつきあい方、そのおもしろさなど品評して遊んだものだ。一般に皆、現在のお客よりもっと酒が強かったし、もっと酒を必要としたし、もっとたくさん飲んだし、もっと酔っぱらっていた。飲み方ももっと個性があって酒ぐせもいろいろ、もあったが多様であった気がする。
 僕らもこの〝品定め〟によって、受け身の自分たちを励まし自らをもたせていたのかもしれない。闘争のような忙しい日々を遊びの感覚にかえてくれる営みでもあった。
 12月中は一日も休まず働き、お正月に安達太良山へスキーに出かけてやっと一息入れた。

 当初、売上げの目標額を5万円ぐらいに甘く設定していたが、景気のよい12月でも半分ぐらいしか達成できなかった。1月に入っても同様であった。それほど悪い成績ではないが、190円のビール、130円の日本酒で、客単価千円ぐらいでは致し方ない。鳥鍋や寄せ鍋をやって少し客単価を上げようと試みたが余り効果がなかった。
 そして〈不景気〉の2月になると、売上げは少し落ちてきた。常連たちにだけ頼っているわけにはいかぬし、結局客数をもっと増やすしかない。
 闇太郎の3カ月間をみると、夕方6~8時の早い時間帯に客数が少ない。駅から離れた立地からして仕方がないが、この時間帯にお客を増やすことが肝心なことだった。
 1973年 春になって2つの企画を考えた。

 一つは「晩酌付定食(バンテイ)」。〝若い諸君! 豊かな夕食を!〟と立看板で呼びかけた。定食に晩酌の酒1本とつまみをつけて350円、この優雅で安価な企画は画期的なものだったと思う。この「バンテイ」のおかげで近所の学生たちが早い時間に今までより気軽に闇太郎をのぞくようになった。又、晩酌の酒が引きがねになって日本酒を何本かプラスして飲んでくれたり、中には定食はやめにして酒で、宵闇時の闇太郎を盛り上げてくれたのは確かだ。
そして、もう一つの企画は「闇太郎競馬予想」であった。

闇太郎
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