【武蔵野まんが道】#01

| COLUMN

気づけば芸術が集う街、武蔵野。漫画出版社の存在を知った我々は「俺らも連載できるんじゃね?」と無謀かつ壮大な野望を抱くに至った。その過程に迫る連載ドキュメンタリー。

タグチ(タ):我らがイチハチマル編集長。全責任が降り掛かるため、過激なアイデアには及び腰。
ハタ(ハ):編集部をまとめるアートディレクター。アート志向が強く、情緒と演出を優先しがち。
コバヤシ(コ):デザイナー。某漫画賞受賞の経験アリ。作画も担当するので苦手ジャンルを避けたがる。
ヨシダ(ヨ):デザイナー。広告制作会社出身のため、発想がセコい。すぐデータに頼る。
トダ(ト):敏腕コピーライター。時折現れ、爆弾を落として去っていく。今回は欠席。

ハ:出版社が吉祥寺にあり、こちらには漫画家がいる。運命というほかない!
コ:そう言われると、そう言うほかないです。
ハ:僕らが企画して、描いて、持ち込んで、連載を勝ち取ろうということで。
ヨ:では、まずは敵を知るところから。
ハ:データマン。調べてくれたんだね。
ヨ:吉祥寺の出版社といえばコアミックス社。主力誌は「コミックゼノン」で「傾く」をテーマにしています。
ハ:テーマからして攻めてる。
ヨ:しかもコアミックスの取締役には原哲夫や北条司なんて名前が。
ハ:敵が強すぎる!
ヨ:連載作品に目を向けると、「終末のワルキューレ」や「蒼天の拳」がアニメ化して話題になってました。
コ:医療モノの「アンサングシンデレラ」「トレース」もドラマ化してましたね。
ハ:…なんか守備範囲広すぎじゃない?
タ:神々転生バトルと、女性向けお仕事マンガ、歴史偉人絵巻が一つの雑誌に。
コ:「傾く」というより人気のジャンルがごちゃ混ぜになったような、、、
ヨ:WEBでは女性向けのマンガ誌「ぜにょん」「タタン」なんてのもあります。
ハ:もはや何でもイケるんじゃ?
コ:とはいえ、経験上持ち込みは「奇抜」な企画の方が引っかかる気がします。
ハ:でもなあ、ユニークを発想するって難しいんだよなあ。
タ:適当に言葉を組み合わせちゃう?アンタッチャブルのネタ制作みたいな。
コ:「荒川アンダーザブリッジ」とか絶対タイトルから発想してます。
ヨ:でもそれだと直感的すぎて、戦略も傾向もない気が、、、
タ:さすがに180でマンガを作るからには、吉祥寺を絡めておきたいな。
ハ:吉祥寺を舞台にしたバトルものとか。名付けて、ハモニカバスターズ!
ヨ:商工会が実はヒーローの本部で、
タ:悪徳議員の汚職を暴くとか?
コ:ほんわか系はどうです。カフェ巡り。
タ:エッセイ漫画的な?
コ:ただ食うだけです。何にも起きないというジャンルありますから。
コ:定番のゾンビものは?
ヨ:それはアリ!
ハ:ゾンビは人気すぎて、最近はメタ的な方向に向かってる気がする。
ヨ:ジム·ジャームッシュがゾンビ撮るくらいですから。
コ:異世界転生モノがファンタジーをバカにしてるのと一緒ですね。
ハ:俺TUEEEってね!
タ:ストレス発散だよ。日本社会が抱える深い深い闇だ。
ヨ:ちなみに「ゼノン」には賞もいくつかありまして、「一点突破漫画賞」はポイントを絞って応募できるみたいです。
ハ:ほうほう。
コ:過去の受賞作を見ると、結構偏った作品が多い印象ですね。
ヨ:アリだと思うんですよね、偏った好き、というか。そこを狙うの。
ハ:いいじゃん。偏執的な内容が、徐々に壮大になっていくというか。
  フェチ、、、「匂いフェチ」はあるよね。
ヨ:生乾きのニオイとか。
ハ:脱いでない方がエロい、とかもあるじゃん。
タ:例えばLGBTものとかは?
ヨ:とてもデリケートですよ、それ!でも流行ってはいるんですよね~
ハ:もうLGBTとか関係なく並列な世界とか、、、
ヨ:「銅像が好き」とか、構成だけを利用できれば良いのでは?
ハ:冨樫の説明コマみたいな、偏執的に愛を語るようなのだと面白いかもね。
  主観で語り切ったら終わり。文学的だ!
タ:誰が読むんだ、そんなケルアックみたいな自己満マンガ!
ハ:いやー、こりゃ難題だなあ。当たり前なんだけどさ。
  てか、持ち込みに通るようなアイデアが簡単に思いついてたまるかっていう…

(企画の難しさに黙りこむ一同。タグチがレモンティーを啜る音だけが響く)

ハ:うーん、それこそ都市伝説とかは?
ヨ:オカルトは引きが強いんですが、もう過去に
タ:やっちゃってるんだよねえ。
ヨ:女神転生とかオカルティックナインとか舞台は全部吉祥寺です。
ハ:むしろ話題になってないものに切り込んだ方がいいのかなあ。
タ:井の頭公園の掃除のおじさんとか。拾っちゃったり見ちゃったり。
ハ:のぞき趣味的な?
タ:落ちてるコンドームとか。
ヨ:単館系アート映画ですね。
ハ:じゃあ…「掃除夫のおじいさんがスワンボートに恋をする」ってのは?
コ:自分の作った銅像に恋するピグマリオンみたいな。
タ:そんな高尚じゃない。ド変態だよ。
ヨ:毎日、好きなスワンが他人に乗られてるのを忸怩たる思いで見つめてる。
タ:そして事件に巻き込まれる、、、
ヨ:好きなスワンが居なくなって、探すと実はその上で、、、的な?
ハ:スワンLOVEなおじさんが十分ユニークだから、プラス事件となると、被せちゃってちょっともったいないかも。
ヨ:なるほど。
ハ:偏執的で気持ち悪いおじいさんが、話が進むにつれステキに見えてくる。最終的には、スワンへの純愛が美しいと。
ヨ:死んだ奥さんと一緒に乗ったスワンだったとか?
ハ:違う。ずっと独身だよ。フランス映画みたいな、偏愛が実は美しい、、、
タ:ピュア。
ハ:そう! すごくキレイに終わる。
タ:それ、キレイに終わる、、、?
ハ:最後はスワンとおじいさんが■■■■。
ヨ:うわ! それは美しい。美しいです。
ハ:いっそセリフなしにしちゃう?
ヨ:あー面白い!
ハ:コマ割りとか演出だけ持っていってさ。すごく美しくなると思う。
コ:偏った愛をぎゅっと詰めた、短編文学のような、、、
ハ:ずっとおじいさん気持ち悪い。スワンの首元をツーっと撫でたり。
ヨ:部屋にスワンの写真がいっぱい貼ってあったり。
ハ:本人は別に変態だと思ってないの。ただ、スワンを愛してるだけ。
ヨ:なぜ「その子」が好きなんですか?
ハ:変に説明的にしないでいいよ。取ってつけたような言い訳みたいだし!
ヨ:でも読者は知りたくなりません?
タ:じゃあ黄金比とか曲線美とか。
ヨ:ギャグならそれでいいんですけど。理由なしで読むかなあ。
ハ:愛に理由が必要か!!
タ:本能的なものはあるから。
ヨ:どうしようもなく好きなことが伝わればいいのか。
タ:吉祥寺とも繋がりある企画だし、これで進めるのでいいんじゃない?
コ:この後はプロット(構成)を組み、ネーム、ペン入れと進めていきます。
ヨ:プロット見てボツになる場合も?
ハ:いくつか案を作って選ぶわけか。
タ:では、続けて2案目を考えますか。
ハ:これは「フェチ方向」ということで。
ヨ:すごく180的です。まだ創刊準備号だけど。いい大人が考えた感が。
ハ:たしかに。