【ON THE ROAD】#03 妖怪絵本作家 加藤志異
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穏やかな住宅地に突如出現する、三鷹天命反転住宅。色彩と時空が歪んだようなその地には〝妖怪〟が住んでいる。名前は加藤志異。古代中国の怪奇本〝聊斎志異〟が由来の通り、時に絵本作家、時に語り部として、不思議な話を志( しる)す男だ。その人生は苦悩と出逢いに満ちている。「ぼくは妖怪になる」と決心するまでに、二人の人物が大きな影響を与えた。

一人は沢木耕太郎。22歳の時に雑誌の記事を読み、彼が書いたカミュの卒業論文を探しに横浜国立大学まで足を運んだ。偶然見つけ出すことができたことを運命だと感じた加藤さんは、その経緯を本人に手紙で伝えた。返ってきたサイン本に書かれた〝in your own way”の文字に衝撃を受けたという。二人目は天命反転住宅を生み出した芸術家、荒川修作。死を乗り越える( 天命反転)ことで新しい身体が生み出せると信じている彼と関わることで、加藤さんは夢を叶える為に命懸けで生きている人がいることを知る。
「人生悩みに悩んで、何をやってもしっくり来なかった。死ぬのがずっと怖かった。でも荒川さんから情熱を貰って、自分も死なない存在になってやろうと思った。自分にとってそれが妖怪だった。背丈が300mあったり、目が100個合ったり、人間と違ってなんて自由なんだと。」

突然の妖怪宣言は周囲を呆れさせ「加藤が狂った」とまで言われた。それでも自身の夢を貫くと決めた加藤さんは、早稲田大学構内、大隈重信像の下で約40分もの間、決意表明を行った。34歳、11年かけて卒業した式の当日だった。雨が降る中誰も足を止めなかったが、それでも「どんな夢でも叶う」と訴え続けた。結果的にその姿はドキュメンタリー映画『加藤くんからのメッセージ』として多くの人々の目に留まり、イメージフォーラムフェスティバル2012観客賞をはじめ、数々の映画賞を受賞するに至った。
その後加藤さんは、天命反転地を寝城とする妖怪絵本作家に変化(へんげ)する。『とりかえちゃん』や『ぐるぐるぐるぽん』などユニークな作品を生み出し、最近は『魔法の似顔絵』と題したワークショップで直接、子供たちに自身の想いを伝えはじめた。
「妖怪は夢と現実の境界を曖昧にして繋げる存在。妖怪活動を通して夢を持つ楽しさを伝えたい。僕も沢山挫折や失敗を繰り返してきたけど、生きることは楽しいと信じている。夢を持たなくても生きていけるけど、持った方がより楽しく生きられるんじゃないかなって」

「夢を叶えるにはどうしたらいいか?」という問いに対して、現代社会は少しリアル過ぎるのだろう。方法論や根性論を語る自己啓発本ばかりが平積みされている。その中で加藤さんは、事情に縛られない子供のような自由さが大切と謳う。「僕は全ての夢は叶うと思っている。サンタにも会えるし、妖怪にもなれる。荒川さんが〝天命反転〟を訴えたように、何事にも不可能はないんだと言いたい。」
バカらしいほど真っ直ぐな情熱が、どうにもならない事ばかりのこの世界には必要だ。妖怪になる男、加藤志異は、これからもin my own wayで世界中の夢を叶えていくに違いない。
加藤志異
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