【ON THE ROAD】#04 剥製専門店 アトリエ杉本

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武蔵野中央公園に程近く穏やかな街道沿い。通行人の視線を集める謎に包まれた場所がある。その名はアトリエ杉本。全国から依頼の絶えない剥製工房だ。店内は3mを超えるシロクマや、鷲鷹などの猛禽類、マグロなどの魚類に至るまで、数多の動物達が出迎え53年の長いキャリアを物語る。

杉本さんが剥製師の門を叩いたのは19歳の時。きっかけはダイビングから始まる魚への愛だった。
「海水魚から淡水魚まで水槽6個位飼ってた。でも当時は一匹で一月分の給料がなくなるような物もあって、設備も悪く死ぬリスクも高かった。それをコレクションに残したくて。」
しかし狩猟が盛んな時代、弟子入り先は鳥や獣も扱っていた。初め動物の血に怖気付いていた杉本さんも、次第に鳥獣魚、ジャンルを問わない剥製のプロへの道を歩むことになった。
「服を脱がせてまた着せるようなイメージ」と語る剥製づくりは、素材に応じた丁寧で臨機応変な作業が求められる。素材の皮を脱がし中身を綺麗に取り除いたのち、木毛や麻わた、近年では発泡剤などの素材で形を作り、再び皮を着せていく。その間には洗浄や薬品処理など専門性の高い工程も加わる。
「みんな同じじゃないから。素材の良し悪し、見る目が大事。状態によっては依頼を断る場合もある」
狩猟では鉄砲で撃つため、羽の抜け落ちや、撃ちどころによってはどうしても傷が残ってしまう。納得の出来る剥製に仕上げられるかどうか、その判断は長年培った審美眼の成せる技だ。

約10年の修行を経て、武蔵野に工房を構え43年。あっという間だったと笑う。
「人間なんて大した事やんないうちに終わっちゃうよね。剥製なんて普段の生活に必要ないじゃない。でも不器用でこれしかできなかったからやめなくて済んだ。」
現在、全国では数十軒まで減ったという剥製師。
「今続けている人たちも僕の歳より上が多い。後継者がいなくてやめるか、歳でやめるか。」
それは一人前になる為に年月をかけ学ぶべき技術や心構えが必要であることを示している。「10年位続けるとお客さんの要望がわかってきて、尚且つ表現する力もついてくる。」スタッフだった上野さんは「三井(ミイ)剥製」として去年独立。杉本さんの技術を受け継いでいる。

愛するペットや念願の狩猟、学術的な保存、依頼者はそれぞれ強い思いを持ち、杉本さんの元を訪ねてくる。
「自然を観察すること、知識を持つ事が大切。でないと不自然な作りになっちゃう。ペットなんか、うちに来たときはぐたっとしてる訳じゃない。でも飼い主さんはずっと元気な姿を見てきた訳だから。そこを僕は表現しなくちゃいけない。」
その真摯でストイックな道程は、これからもまっすぐに伸びていく。

剥製専門店 アトリエ杉本
Tel : 0422-55-2435
〒180-0011
東京都武蔵野市八幡町1-4-1
営業時間 : 10:00〜18:00(昼休憩有)
定休日 : 日・月・祝