【あしたの闇太郎】 第1話 開店当時のこと
| PEOPLE

1966年秋、名古屋から出てきたばかりの頃。杉並の先輩を尋ねた時に、偶々散歩で井の頭公園に行った。運命のめぐり合わせだった。なんの迷いもなく「この公園の傍に住もう」と吉祥寺に住むことを決めた。わが青春の〝聖地〟だった。だから後に〝闇太郎〟を開店しようとした時、吉祥寺だけは避けて探していた。立川から千葉まで中央線沿いをしらみつぶしに探し回る中、三鷹の不動産屋に「これからは吉祥寺の時代だよ。デパートも3つできて発展する。吉祥寺で探した方がいいよ」と教えられた。
1972年当時の吉祥寺は、のどかで健康な田舎街だったから〝闇太郎〟を名乗って店をやるなんてとても想像できなかった。国立大学を出てインテリとして生きてきたのに、突然酒場をやるなんて、と周囲に対して気恥ずかしい想いもあったと思う。

吉祥寺では物件が4つ見つかったが、その中から今の場所を選んだ。駅から離れた五日市街道沿いで、真前に「吉祥寺名画座」というポルノ映画館があった。あとは寿司屋と喫茶店が1軒ずつあるだけで、夜になると真っ暗な処だった。でも「いいロケーションだな」と思った。裏に住宅街が広がっていて、武蔵野寮をはじめ学生たちの下宿や寮が沢山あった。絶えず学生たちが飯を食べに出入りしていた。
その姿を見て、これはいけるなと。実際開店すると、彼らが主役になってくれた。超安値の「バンテイ(晩酌付き定食)350円」を作ったりして、彼らをターゲットにして客を作っていった。彼らは「仕送りが来た」「バイト代が入った」と代わる代わる交代で「今日は俺が払うよ」「お前は今度でいいよ」などと言って飲みに来てくれた。学生たちは貧しかったけれど、サラリーマンよりよっぽど豊かだった。キャバレーのついでとか、他店の酔客などではなく、「この店に飲みにきた」と言って貰える店にしたかった。

駅から離れているから、ここを目指さないとなかなか来られない。「よくこんな辺ぴな処で開店したね」と多くの人に言われたが、だからこそ闇太郎の客が作れると思った。
時間はかかるかも知れないけれど、この店に行きたいという客が作れる気がした。学生たちが初めに、〝自分たちの店〟として常連になってくれた。料理は素人だったが、若い人なら、実質的に安くて美味ければ、支持してくれると思った。
闇太郎
Tel : 0422-21-1797
〒180-0002
東京都武蔵野市吉祥寺東町1-8-18
営業時間 : 18:00~22:00
定休日 : 日(祝日不定休)