【あしたの闇太郎】 第2話 なんでも揃う街 吉祥寺
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開店準備を始めると、吉祥寺は何と仕入れに適した街か!と改めてわかった。とりわけハーモニカ横丁が便利で魅力的であった。生鮮食品は築地迄出かけなくても、ここでほとんど賄えた。「小島水産」「不二屋」「油井商店」など何軒もの魚屋から、新鮮なイキのいいものが毎日手に入った。八百屋は「水野兄弟」が2軒、安売りしてくれ、その周囲には乾物の「土屋商店」(現存)、麺類は何でも揃った「竹田製麺」、おでんの具は「塚田水産」(現存)と、良い仕入れ先が見事に揃っていた!煮込みやホルモン焼用のもつ肉などは「いせや」が自転車で配達してくれた。店の近くでも「丸富豆腐」と「岩崎屋」が美味しい豆腐をつくってくれていた。
これらはどこも小売り店だが、開店の挨拶と取引きを申し込むと、ほとんどが10~20%程の値引きをしてくれ、卸売りのように計らってくれた。人と人、店と客も含めて、損得や人情がのどかに交わっていた時代であった。

酒類は、今はコンビニ店に変わっているが、地元で頑張っていた「上杉商店」に仕入れを頼みに行った。はじめは業界80%以上のシェアのキリンビールにしようと思っていたが、偶々そこでサッポロの営業マン2人と居合わせた。立て看板をタダでやり、開店祝いで5ケース出してあげるからと口説かれたりして、「えい!サッポロでいいや」と即決した。〝男は黙ってサッポロビール〟の三船敏郎のコマーシャルも気に入っていたし、サッポロ生の黒ラベルも好きだったから。
同じように、日本酒もはじめ一級酒は剣菱でいくつもりでいたが、菊正宗の営業マン2人が店に何回もやって来て、特注の大看板をつくってあげるから、と熱心に勧誘してくれたので、菊正宗でいこう!と決めた。(3年程経って剣菱に変えた時、大看板は20万円程もかかった)

五日市街道は吉祥寺の外れで、夜は真暗だったから、高く大きな看板と目立つ赤ちょうちんは絶対不可欠な要素だと思った。開店当初「こんな辺ぴな処でよく店をやったね」と何人かの客に言われたものだが、きっとこの大きな看板と赤ちょうちんが店の佇まいを際立たせてくれると信じていた。住宅街に接しているので、帰宅前の「最後の砦」とか「最後の関所」みたいだ、と冗談に言われたが、僕自身はその言葉にリアリティを覚えたものだ。闇太郎はくらい闇の方が似合っているんだ。
闇太郎
Tel : 0422-21-1797
〒180-0002
東京都武蔵野市吉祥寺東町1-8-18
営業時間 : 18:00~22:00
定休日 : 日(祝日不定休)